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ねこと著名人

6.宇多天皇とすばらしい黒猫

宇多天皇は日本の第59代天皇で、現存している天皇の最古の日記「寛平御記(三代御記)」を書いた人です。 平安時代後期の廷臣、学者である藤原俊憲の「貫首秘抄」によれば、「寛平御記」は天皇の作法や政治、幼帝の教育方法を知るための必見の書と記されています。ところが、この日記の寛平元年(889)2月6日を見ると、愛猫のことが実に詳細に書かれています。この時代にこれほど猫のことを記した日本の資料は他にありません。
その内容をかなり砕いて意訳すれば、

時間あるし私の猫の話をするぞ。私の猫は他所の猫と比べ物にならない素晴らしい猫だ。見た目は真っ黒で宝石とか黒龍とかとにかく素晴らしいし、鼠とりの能力なんて他の猫が及ぶことがないほど素晴らしいね。
おっと、先帝から賜って5年間、毎朝乳粥を与えて飼っているが、猫が可愛くてたまらないわけじゃないぞ。ただ先帝から賜ったから大切にしているだけだからな。
なあ猫や、お前は私の言いたいことわかるよな?(※猫に呼びかけ)
でも猫は私を見上げて鳴く素振りをするだけで、声は出せないんだよね…

猫が見上げて鳴く素振りをする状況というのが、どれほど猫が満足し相手を信頼している状況か。猫と暮らしている方はもちろん、多くの猫好きの方がご存知かと思います。宇多天皇が普段、どのように自慢の黒猫へ接していたか、浮かび上がってくるようですね。

6-1.宇多天皇の猫語り

意訳で端折っている詳細部分はこちらから。古い言い回しは難しいという方も、べた褒めの雰囲気だけでも伝わると思います。

朕の閑時に、猫の消息を述べて曰ふ。
驪猫一隻、大宰大弐源精の秩満ちて来朝し、先帝に献ずる所なり。
その毛色、類はず愛しき云々。皆、浅黒色なるに、此れ独り黒く墨の如し。
其の形容を為すは、ああ、韓盧に似たり。長さ尺有五寸、高さ六寸ばかり。
其の屈するは秬粒の如くして、其の伸びるは長き弓を張るが如し。
眼睛晶口、針口の乱の如し。眩鋒の直竪の起き上がるが如く揺れず。
其の伏臥する時、団円して足尾見えず。宛も堀中の玄璧の如し。
其の行歩する時、寂寞にして音声聞こえず。恰も雲上の黒龍の如し。
性、道行を好み、五禽に暗合す。常に頭を低くし、尾を地に著く。しかるに背脊を聳せば高さ二尺ばかりなり。毛色、口澤盖、是に由るや。
亦、能く夜鼠を捕らへること、他猫に勝る。
先帝、愛玩すること数日の後、之を朕に賜ふ。朕、撫養すること今五年なり。毎旦、乳粥を以て之に給ふ。豈にただ、材能の口口を取るや。先帝の賜はる所に因りて、微物と雖も殊に懐育の心有るのみ。
仍りて曰ふ、「汝、陰陽の気を含み、支穴の形を備ふ。心有りて心寧、我を知るや」と。猫、すなはち歎息して首を挙げて吾が顔を仰ぎ睨む。心咽びて臆盈たすに似れども口で言ふこと能はず。